木下 浩佑
MTRL / FabCafe Kyoto マーケティング & プロデュース
素材を起点にものづくり企業の共創とイノベーションを支援する「MTRL(マテリアル)」と、テクノロジーとクリエイションをキーワードに多様なクリエイター・研究者・企業が集うコミュニティ拠点「FabCafe Kyoto」に立ち上げから参画。オンライン/オフラインのワークショップ運営や展示企画のプロデュースなどを通じて「化学反応が起きる場づくり」「異分野の物事を接続させるコンテクスト設計」を実践中。
Judge’s selections
「脱・採掘&輸送」賞
「石は採掘して運んでくるもの」という無意識下の固定観念が破壊される衝撃。思わずエントリーの文章を二度見してしまいました。廃棄物を循環システムの中に戻し再素材化するアプローチには様々なものがありますが、なかでもこの The Fossilizator は、「廃棄物削減」「素材化」に加えて「CO2固定」「輸送コスト低減」「天然資源の採掘量削減」「地域での雇用創出」など、環境面での課題解決のみならず持続可能な地域経済の実現にもリーチする、優れた試みだと感じました。万年、億年単位で大地を形成してきた「生物の化石化」プロセスを元にして、いまあらためて建築物や道路の下地をつくるということも、面白く印象的です。
「データビジュアライズ」賞
Aquaterrestrial Recolonization
College For Creative Studies, Detroit, United States / University of The Bahamas, Nassau, Bahamas / AI.R Lab, United States
珊瑚礁の危機に対する保全と再生のアクションの必要性をより多くの人が直感的に理解できるようにするために、AIを用いて「本来あるべき姿 / 最適な姿」のビジュアルとして可視化することは有効なアプローチだと感じました。海洋の生態系システムにおいて重要な役割を果たしているサンゴが海水温度上昇や水質汚染などから受けているダメージに対して、このデータをどのように有効活用し、どのように人間があらためて介入して改善を図ることができるのか?サンゴの養殖、移植などのコロニー再生のための取り組みと、このプロジェクトが今後どのように連携されうるかについて、もっと詳しくお話を伺ってみたいと思いました。
「脱・啓蒙」賞
「海岸にそのまま放置することが、むしろ推奨されうる」というコンセプトに驚かされました。ゴミ問題に対する啓蒙や管理をどれだけ推し進めても、「すべての人の意識を変え、行動を制御する」のはおそらく不可能。ゴミに対して自覚的であってもなくても、海辺でのアクティビティ自体が生態系にポジティブな効果を与えるのであれば、そちらの方が海の環境改善には近道かもしれません。社会実装に際しても、製造から流通に至る工程がシンプルであること、牡蠣の殻を廃棄するレストランにも容器を製造する工場にも経済的なメリットが生まれる構造になっていることなど、地域単位で小規模に始めやすい仕組みとして設計されており可能性を感じました。
「量とサイクルへの視点」賞
定期的にまとまった量が賞味期限切れとなって廃棄される災害備蓄食材を、なんとか処理しないといけないものではなく「資源」と捉える視点にはっとさせられました。単に廃棄から救出するだけでなく、乾パンやアルファ米など、従来だとわざわざビールづくりに使うことがなさそうな材料を用いることで独自の風味が生まれそうな点も興味深い。そして、そんな裏側を知らなくても思わず手に取りたくなるラベル、飲んでみたい!とシンプルに思わせる力強さが素敵です。「エクスキューズなしでも欲しくなる」は持続的な流通のためにきっととても大事。
「汎用性のデザイン」賞
技術的には不可能ではないはずなのに、いわゆる「大人の事情」が循環を阻害する...という構造的な課題に対して、「枯れた技術の水平思考」的なアプローチで解決策を提示しており、とにかく痛快。既存の印刷技術や設備をそのまま活用できること、廃材から新たな製品をつくるのではなく汎用的な素材に戻すことなど、展開性を念頭においた仕組みとしてデザインされていることも素晴らしいです。また、消費者の購買欲を促すために巨大な屋外広告を製造してはすぐに捨てるというサイクルを繰り返し続ける、都市における企業の経済活動への批評的な視線も感じました。