加藤 佑
ハーチ株式会社 / 代表
1985年生まれ。東京大学卒業後、リクルートエージェントを経て、サステナビリティ専門メディアの立ち上げ、大企業向けCSRコンテンツの制作などに従事。2015年12月にHarch Inc.を創業。翌年12月、世界のソーシャルグッドなアイデアマガジン「IDEAS FOR GOOD」を創刊。2020年に第一回ジャーナリズムXアワード受賞。現在は企業のサステナビリティを支援する「IDEAS FOR GOOD Business Design Lab」、サーキュラ―エコノミー専門メディア「Circular Economy Hub」、横浜市のサーキュラーエコノミープラットフォーム「Circular Yokohama」など複数事業を展開。英国CMI認定サステナビリティ(CSR)プラクティショナー。
Judge’s selections
IDEAS FOR GOOD Circular Business Model Prize
地元である沖縄産のサトウキビの未利用資源バガスを活用しているという点、かりゆしウェアのターゲットである観光客は短期滞在のため、サーキュラーエコノミーの観点だけではなく事業視点でもシェアリング・PaaSモデルがマッチしているという点、シェアリングによりできる限り製品寿命を延ばしたうえで、利用後は土壌改良剤として活用することで、技術サイクル→生物サイクルモデルへの移行がデザインできている点、さらにProduct Passportの概念を取り入れることでトレーサビリティに加えて生産者と利用者のつながりを生み出し、工芸学習や体験につなげるなど先進的なビジョンもあり、まさにサーキュラーエコノミーのエッセンスが詰まった優れたモデルだと感じました。また、モデルの秀逸性だけではなく、プロジェクトを通じて地域の伝統的な衣服文化やサトウキビ畑の原風景の保存につながるという点も素晴らしいと感じました。
IDEAS FOR GOOD Circular Community Prize
分解可能な設計・モジュールデザインなどのサーキュラーデザイン、マテリアル・パスポートに基づくBAMB(Building as material bank)概念の実装、PaaS・シェアリングといった循環型のビジネスモデル、アクアポニックスやパーマカルチャー、屋上農業、養蜂などによる循環型農業など、生物サイクル・技術サイクル、ソフト・ハード全てにおいて徹底してサーキュラーエコノミー原則が採用されている、とても革新的なプロジェクトだと感じました。今後、住民の方々がどのようにこのサーキュラー・ヴィレッジに命を吹き込み、新たな都市生態系を構築していくのか、とても楽しみです。
IDEAS FOR GOOD Circular Design Prize
最初にアパレル業界の複雑なサプライチェーンとマテリアルフローを徹底的に分析・可視化し、生物サイクル・技術サイクルに分けて考えるCE原則および創出可能なインパクトの大きさを踏まえたうえでプロジェクトのスコープを「消費者使用後」の「コットン」の再生という点に絞っている点、また、消費者が古着の選別・回収を担うことで、リサイクルに向けた「品質が見合わない」「コストが合わない」ため循環が回らないという現状の静脈側が抱える構造的な課題を解決し、新たな循環ルートを構築しようとしている点。さらに、再生マテリアルにNFCチップを搭載することで、機能的耐久性だけではなく情緒的耐久性(Emotional Durability)を強化するというビジョンもあります。Understand→Define→Make→Releaseというプロセス設計、Zoom-in・Zoom-out 双方の視点からの構造的課題に対するアプローチなど、まさに優れたサーキュラーデザイン思考の実践だと感じました。
IDEAS FOR GOOD Circular Concept Prize
サーキュラ―エコノミーの実現には資源の「可視化」「マッチング」という2つが欠かせませんが、かりに可視化ができたとしても、需要と供給のタイミングがいつもマッチするとは限りません。その意味で、資源を一時的に「保管」しておくという機能も重要となります。金融システムにおいては銀行がその役割を担っていますが、同じインフラを「生きた木」にも提供するというTree Bankのアイデアはとてもユニークかつ価値あるプロジェクトだと感じました。Tree Bankにより屋外イベントなどの一時的な緑化需要に応えるTree as a Serviceモデルを展開できることで、都市のグリーンインフラや空間活用における新たな可能性が広がると感じました。サーキュラー建築分野においては「BAMB(Building as Material Bank)」という概念がありますが、Tree BankはBAMBを都市の木々にも拡張したプロジェクトとも言え、さらには人間とともに都市に生きる木々たちの長寿命化を支える病院のような存在にもなりえるかもしれません。
IDEAS FOR GOOD Circular Economy for Biodiversity Prize
サーキュラーエコノミーと生物多様性との関わりについてはまだ十分な議論に盛り上がっているとは言えませんが、サーキュラ―エコノミー原則の1つは「自然を再生する(Regenerate Nature)」であり、サーキュラープロダクトやビジネスがどのように生物多様性の保全や回復に貢献するのかを考えることは今後ますます重要になると考えられます。その点で、Symbeeosis®は、キャンドルという人間のための製品をミツバチの住居にリユースするというとても斬新かつクリエイティブなアイデアで、サーキュラーエコノミーと生物多様性に関わる新たな可能性を示しています。キャンドル購入が増えるほど都市部において人間ではなくミツバチの住居が増え、都市生態系が回復していくという再生型の都市ビジョンの一部になりえると感じました。消費者にとっても蜂にとっても魅力的な香りという、人間中心デザインを乗り越えた思考、生分解可能な素材、シードペーパーパッケージなど、プロダクト細部にもサーキュラーエコノミー原則が貫かれている点なども魅力的でした。